バングラデシュ国「ダッカ市都市交通料金システム統合のためのクリアリングハウス設立プロジェクト」に参加して
2023/09/07 シニア・コンサルタント 枦山 信夫
 

現在、私は、JICAの技術協力プロジェクトであるバングラデシュ国「ダッカ市都市交通料金システム統合のためのクリアリングハウス設立プロジェクト」フェーズ2(2020年3月~2024年1月)に参加させていただいています。このプロジェクトは、現在、円借款による支援で建設が進められているダッカ都市交通整備事業(MRT6号線)とダッカ市内の他の公共交通のICカードによる料金システム(日本のsuicaカードと同じ仕様)の統合によって、利用者の利便性を向上させ、MRT6号線の利用を促進し、ダッカ都市圏内の交通渋滞を緩和するとともに、深刻な大気汚染の緩和を図ろうとするものです。
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私も70歳を超える高齢者であり、現役の時には「OA化石」と揶揄されるほど、デジタル技術には疎いのですが、2011年からバングラデシュで業務にあたっており、本プロジェクトのPhase I(2014年6月〜2018年6月)以前から関与させていただいてきた経緯があり、Phase Iからお手伝いを続けております。海外経済協力基金に在職中は、2〜3年でローテーションがあり、同じ案件を長期にわたり担当することはありませんでしたので、この年齢になって、10年を超える期間、同じプロジェクトにかかわるという、人生最初の経験をしています。

ダッカの交通機関は、大量輸送手段はバスのみであり、多数のリキシャ(日本の人力車から来ていますが、自転車を使っています)、自転車が、大量の自動車と道路上で混然と争っており、その混雑は極めて深刻となっています。この為に、バングラデシュで初めての大量輸送手段であるMRT6号線への期待は大きいと、肌で感じます。そのMRT6号線にICカードを導入し、MRTに接続するバス等でも切符を購入することなく、スムーズに乗り換えられるという利便性を確保しようとしています。この利便性で、利用客の拡大を図ろうとしています。

バングラデシュ政府も、このカードの導入に重点をおいており、ハシナ首相ご自身が地域をダッカに限定しない「Rapid Pass」との命名を行いました。さらに、「One Card for all transport」との方向を示し、すべての交通機関への導入を図るとともに、ダッカ以外のバングラデシュ全土での活用を推し進める姿勢を示しています。

この背景には、もう一つこのカードが果たしうる大きな社会的な役割への期待があります。現在の現金ベースの料金システムには、料金収入の大きな漏れが生じています。運転手、車掌などが、乗客から不正に若干安い料金を徴収し、自らの収入としています。これが運転手、車掌等の副収入となって、彼らの生活を支えることとなっています。カード導入により、改札口、乗車口で現金のやり取りをなくすことによって、この「料金の漏れ」 を防止することが期待されています。この「料金の漏れ」防止によって、各交通機関の料金収入が大幅に改善し、経営の安定化を図ることが期待されています。いわば、社会の改革に繋がることが期待されています。しかしながら、この「料金の漏れ」が前述のように従業員の生活を支える収入となっているため、合わせて彼らの生活を給与の改善等で支える必要もあり、安易に達成できるかには、疑問が残ります。

50年にわたる私の経済協力の経験の中でも、最も夢のある、意義が大きなプロジェクトであり、それがゆえに、これまで経験したことのない困難に直面して、四苦八苦しております。こうした夢のあるプロジェクトに参加させていただく機会をいただいたことに感謝しつつ、何とか貢献を続けていきたいと考えております。



     

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